狂四郎よもやま話 |
某名門女子大のSF研、及び漫研で部長として君臨していた!? 何でもいいから原稿用紙に6枚書けといわれて、何をかいたらいいのかあれこれ考えつづけていたら、締切があっというまに来て、今あわてて喫茶店に入り、コーヒーも飲まんで、これを書いております。 ここで席を変わったら、あの子達、いやみだ、と思うだろうなと気がわしながらやっぱり席を変わり、新しいテーブルで、冷たいコーヒーなんぞを一口のんで、さあ書こうと思ったら、あろうことか、となりの席に子供連れのお母さまがいらして「ここいいですか?」などと
お聞きになるので、「ええ」と答えつつも、あわてふためき、
「宿命からのがれることはできん。時の必然律、人の運命」と観念Lて、同じ席でやけくそでこの文章を書いとります…-。 『時のオルフェ炎の道行』の主人公が着ている、黒羽二重の紋付の着流しは、当然ながら柴田錬三郎の眠狂四郎から借りてきたものであります。
(あれを黒ちリめんだと思った人は即、訂正すべし)当然当然、私は眠狂四郎の大ファンで柴錬の時代物のファンとしても、かなり年期の入ったほうではないかと、ひそかに自負しておる次第です。 まあしかし、
「時のオルフェ」の主人公は眠狂四郎のような徹底したニヒリストではなく、花魁(?)に化けた時間局員をなんと切りそこねるという剣の腕前で、円月殺法も知らず、腰にさしてる刀も無想正宗ほどの名刀ではないようで、やはり30世紀から来た時間の放浪者で江戸時代は専門ではないらしい。 『時のオル7エ炎の道行』は、以前同人誌にかいたもので、今度のは新しく描きなおしたものです。もとのは何と16ページでした。昔のオルフェは.緑もひどくて(今もひどいけど今よりもっとひどい)背景もろくにないような物で(今もないけど今よりもっとない)人物たちの表情ばかりはいっちょまえで、私はどうしても、その昔の表情をうつすことはできませんでした。 “ヒロシミアン”という耳なれぬ単語を作ったのに気がひけて、まずかったかなと思っていたら、この漫画を読んだS氏(今や雑誌の編集者になっているが、当時はまだ学生であった)が曰く、
「すると、“ナガサキスト”とか“ビキニアン”とかもあるわけですか,?」ここだけのはなしですが、私がSFマンガ 話を眠狂四郎に戻すと、眠狂四郎のライバルにかつて白鳥主膳というのがいて、眠狂四郎の黒に対して、何から何まで白という美剣士なのですが、私はずっと、彼の名はハクチョウシュゼンと読むと思っていたのです。ところが木原敏江先生の『縁紅最前線』にちらとこの白鳥主膳のことが出てきて、それにきちんと、シラトリシュゼンという仮名がふってあったので腰をぬかすほど驚いたのです。シラトリシュゼンと読むのが正しいのでしょうか、やはり。正宗白鳥はマサムネハクチョウ やっと5枚目にさしかかったので、安心して喫茶店を見まわすとすでに隣の親子連れも立ち去り、女子高校生の一団もおらず、かわりに昼間から酒の入ってるような大人の3人連れが騒いでいて、酔って、「あれほ小説家だ」などと私を見てののしってるのであリました。だめにした原稿用紙をやたらテーブル中にちらばらせてかいていたので、そう見えたのでしょう。小説家のふりをして、5枚目をかきつづけることにします。 SFの題名は読まぬ先から心がわくわくするようなものが多く、
『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』とか『月は無慈悲な夜の女王』とか『地球幼年期の終わり』とか、まだ読まぬ頃からずいぷんあこがれたものです。なんとか自分のマンガにもそのようないい題をつけたいと思っていて、
『時のオルフェ炎の道行』も、ずいぶんむちゃくちゃ考えて出てきたもので、もとは、『エド2356年』とかいうので、何だか光瀬龍の,都市シリーズみたいなのを考えていたのでした。 ヒーローとしての魅力からいうと、エルリックも眠狂四郎も私には同じように魅力的なのだが、小説のできぐあいという点からみると、これは断然眠狂四郎がすばらしい。ムアコックは、どうしてあんなすごいヒーローに、破綻したストーリーしか作ってあげなかったんだろう。
「夢見る都」は傑作だが、他はあまりよくない。柴田錬三郎とムアコックを比べるなんて変な話だが、小説家としてのうま さを比べたら柴錬が上だということほ明白である。こんなことを暫くとムアコックのファンは怒るだろうけど、しかたがない。柴田錬三郎は彼のエッセイの中で、森茉利を薄汚いおぱさんよばわりしたりしていて感心しないが、眠狂四郎に関しては、どの作品もすばらしい由三島由紀夫が眠狂四郎の連載が始まった時、舌をまいて言ったそうである。
「シバレンってうまいねえ。こういうものを書かせると:・あきれるくらいだねえ」
ムアコックが下手なのじゃなくて、柴田錬三郎がすごすぎるのかもしれない。 嬉しくもムチャクチャにも、とうとう枚数がつきたので、小説家のふりをして喫茶店を出ていくことにします。ああ、しかしこれでいいのか・・・・・ |